「苦しい言い訳」
『私どもは、現時点では本経営統合に対して反対であることを表明いたします』(注4)。テクモの大株主であるエフィッシモは現状のままであれば、経営統合に反対すると表明している。エフィッシモは質問状において『開示された定量的な情報は新会社グループの3年後の売上高、営業利益及び経常利益の目標のみであり、著しく情報が不足しております』(同)と指摘しているが、経営統合を正式に公表した11月18日の発表資料等を見ても両社が協同して取り組む事業内容が簡単に書かれているだけであり、それ以上の踏み込んだ表現はない。唯一あるのが、2011年度における売上高や利益水準の数値目標だけである。これでは、本当に公表された利益目標が達成できるかどうか判断が難しい。大株主であるエフィッシモが質問状を送るのも無理はない。
テクモの柿原氏は『コーエーはアジアに強く、テクモは北米市場に強く、重複するところが少ない。さらにオンラインゲームを開発しているが、コーエーはその分野で非常に進んでおり、オンラインが強いコーエーと組むことで、強いシナジーが生まれるものと考えている』(注3)と述べているが、スクエニもその点ではファイナルファンタジー11を運営しておりオンラインゲームに対するノウハウは十分に持っている。かつスクエニの場合はコーエーが苦戦している欧州に強い。欧州市場はアジアよりも規模が大きく、また市場全体も拡大傾向であり、伸び悩みが著しい日本市場と比べても高い成長力を持っている。こうした点を見てもスクエニがコーエーより劣っている点はそれほど無いように感じる。
テクモとコーエーはこの疑問に対しても明確に答えを示しているとは言えない。だが、それこそが最大限のシナジー効果を発揮できると見込んで生まれた経営統合ではないことを物語るのではないか。両社が未だに具体的な将来展望を描けずにいるのもそのためであろう。
もしこのままエフィッシモに対してテクモ側が納得できる説明をしなければ、おそらく2009年1月末に開催される株主総会において彼らは反対票を投じるだろう。両社の統合が正式に決まるには、1月末の株主総会において出席議決権の3分の2以上の賛成が必要になるが、テクモ株の約18%を保有しているエフィッシモが反対すればコーエーとテクモの経営陣が予期しない結論が出される事態も考えられる。
しかしながら、テクモとコーエーがそれぞれの事情を抱えている以上、経営統合に向けて必ずや尽力するであろう。コーエーとテクモが今後もゲームソフトメーカーとして生き残るためには理由はどうあれ双方が双方の存在を必要としているのであるから、最終的にはコーエーテクモホールディングスが誕生すると思われる。
しかし、経営統合が正式に決まったとしても、両社がそれぞれ抱えている問題が解決されたわけではない。経営陣の都合が優先されて誕生することになるコーエーテクモホールディングスの今後は、決して平坦な道のりではない事だけは確かだろう。