「なぜコーエーなのか」
コーエーとの経営統合に合意したテクモだが、最終的に両社の統合を決める権利を持つのは株主である。そのためテクモ株の約18%程度を保有するエフィッシモの意見は無視できない。だが彼らは今回の経営統合に対し少なからず疑問を抱いている。彼らがテクモに送った質問状によると『現在までのところ説明が不足しており、……現時点では本経営統合に対して反対であることを表明いたします』(注4)と記されているが、特に下記三点が説明不足であると指摘、改めて詳しく説明するように求めている。
まず一点目が「本経営統合による株主価値向上の実現可能性」、続いて二点目が「現在コーエーで行っている資産運用の継続の有無」であり、最後に「本経営統合における貴社経営陣の保身目的の有無」である。
ここで重要なのが三点目の「経営者の保身目的の有無」である。エフィッシモは質問状において『自らの保身を目的として本経営統合を実施し、これにより株主の利益が犠牲にされるのではないかとの懸念を有しております』(同)と述べ、今回の経営統合はテクモ経営陣の保身が真の目的ではなかったのか、とまで言及しているのである。
テクモはスクエニの買収提案を拒否した理由として『他により企業価値向上の実現性の高い選択の可能性がある』(注5)としてコーエーとの経営統合がよりよい選択だったと示唆しているが、その具体的な根拠を挙げている訳ではない。そのため、買収提案を拒否されたスクエニ側より改めて『コーエーとの経営統合の条件が本案(スクエニが行った買収提案)よりもテクモ株主にとって有利であることを具体的にご教示いただきたい』(注6 括弧内は筆者)との質問がなされたほどであった。
では、なぜテクモ経営陣がコーエーとの経営統合を進めた事を、エフィッシモは経営陣の保身が目的だったのではないかと言っているのか。それはコーエーとスクエニの時価総額と両社がテクモに対して出した提案を比べれば理解できる。
2008年末時点で約3314億円の時価総額を有するスクエニの提案は、テクモの株式を買い上げることでグループ化を目指したものだった。しかし、約654億円の時価総額しかないコーエーの提案はスクエニとは異なり、新たに持ち株会社を設立し、その会社の新株を、保有するテクモ株数に応じて割り当てるという経営統合案である。
テクモの大株主でもある現経営陣にとって、現金が交付されるだけのスクエニの買収案は面白くない。なぜなら買収案に応じれば現在の保有株が取り上げられるため、買収後のテクモに対し影響力を行使することが出来なくなるからだ。一方コーエーの経営統合案であれば、現在の保有株は新会社の株に変わるだけであって、経営に対し一定の発言力を保つ事が出来る。
しかも、スクエニより低いコーエーの企業規模や時価総額は魅力だ。それは統合相手の時価総額が低ければ低いほど、持ち株会社に対するテクモ株主の出資比率が高くなり有利になるためだ。テクモの2008年末時点での時価総額は約196億円であり、スクエニの時価総額の約6%程度を占めるぐらいだが、コーエーとの場合だと約30%程度にまで急浮上する。実際、持ち株会社の出資比率はコーエー株主が約77%前後、テクモ株主は約23%前後と試算できるが、もしスクエニが相手であればこの比率は格段に悪くなるであろう。
テクモの大株主でもある現経営陣が自らの発言力を維持したいと考えるならば、テクモ株主の出資比率がより高くなる相手で、かつ今後も現経営陣が大株主として影響力を保ち続けることの出来る相手が理想である。この論理であれば、なぜスクエニではなくコーエーだったのかが理解できる。
もし仮にこの推測が当たっているのならばテクモ経営陣の保身のために経営統合が行われたと断言するしかない。エフィッシモは、この可能性を否定できないからこそ質問状を通して確認をしているのだ。
しかしながら、経営統合は相手がいなければ成立しない。テクモ側の論理は理解できるが、それだけではコーエーがなぜテクモとの統合を希望したのかが分からない。テクモ経営陣の保身に協力するためにわざわざスクエニとの交渉中であったテクモに対して『TOBの提案をきっかけに、コーエーからコンタクトした』(注3)のだろうか。
その理由を知る上でもやはりエフィッシモの質問状が重要な鍵になる。コーエーがテクモとの経営統合を希望した理由とは、質問状の二点目に指摘されている「資産運用」の影響がコーエーを突き動かしたからである。
注4……「株式会社コーエーとの経営統合に対する反対意見の表明」 Effissimo Capital Management Pte Ltd 平成20年12月24日 EDINET
注5……ロイタージャパン 「テクモがスクエニの買収案拒否、コーエーと経営統合で協議」
注6……スクウェア・エニックス プレスリリース「テクモ株式会社に対する同社株式の友好的公開買付けの提案に関する同社からの回答への対応について」平成20年9月4日