なぜ排除の論理を選んだのか? ~長期政権が崩れるとき~Part1

「過去最高益」

『エレキ部門は予想以上によくなった。自信の度合いはかなり高くなった』(注1)。ソニーの2007年三月期決算は売上高こそ伸びたが本業の儲けを示す営業利益は大幅な減益に陥った。その主因はプレイステーション3(PS3)発売に伴って発生した費用が大きく膨らんだためである。2000億円を超えると見込まれていたゲーム部門の損失は最終的に2323億円にまで拡大し、グループの損益を大幅に悪化させることになった。

しかしながら、同時に会社側が提示した2008年三月期の業績予想では一転、営業利益が約6倍に増加し、最終利益は過去最高になるという。この業績回復の牽引役となっているのは残念ながらゲーム部門ではなく、本業のエレクトロニクス部門だ。ソニーの財務担当である大根田氏は同部門について『前期千五百六十七億円だった営業利益は今期、三千億円近くまで拡大しよう』(注2)と述べ、本業の利益が急回復するとの見通しを示している。

一方、かつての稼ぎ頭でもあったゲーム部門の2008年三月期は、前期より改善するとはいえ『今期も約五百億円』(注2)の赤字が続く見込みだ。

これほどの赤字を出しながら、それでも現状のPS3は厳しい競争に晒されている。当初の計画より遅れて昨年11月にソニーコンピュータエンタテインメント(SCE)が発売したPS3であるが、エンターブレイン社の推計した2007年3月25日までの累計販売台数を見ると『"Wii(ウィー)"が百九十五万三千六百三十三台、"プレイステーション3(PS3)"が八十一万二千七十四台』(注3)となっており、かなりの劣勢に立たされている事が分かる。そのため同社の中鉢社長は一部で指摘されているPS3の値下げについて『可能性は否定しない』(注4)と述べ、何らかの打開策を検討している事を明らかにした。

だが、値下げとなればゲーム部門の赤字額は会社側の予想よりもさらに膨らむ事が十分に考えられる。もし、このままPS3の不振が続けばゲーム部門そのものがグループ全体の足手まといにすらなりかねない。

ソニーが掲げる経営目標は2008年三月期における連結営業利益率5%だ。しかし2007年三月期の時点では僅か0.85%程度でしかない。これを目標通りに引き上げるためには、巨額の赤字を垂れ流すゲーム部門を何としても今期中に立て直す必要がある。時間がほとんど残されていないソニーの危機感は相当なものと言えるだろう。

それにしても、プレイステーション2(PS2)がゲーム市場を席巻していた頃、誰もが何れ登場するであろう次世代機「PS3」の勝利を信じて疑わなかった。SCEの黄金時代はまだまだ続くだろうと皆が思っていた。それなのに、なぜこのような苦戦を強いられることになったのか。もちろん、高額な本体価格や量産が遅れた事なども原因として挙げられるだろうが、それ以外にも影響を及ぼした要因の一つとして考えられるのがPS3に込められた「排除の論理」ではないだろうか。

では、PS3に込められた「排除の論理」とはいったい何であろうか。かつてPS3と同様の役割を担い、PS3以上に「排除の論理」を深く刻み込まれたために、次世代ゲーム機戦争に敗れたゲーム機があったが、そのゲーム機との類似点を探りながら今回はPS3に込められた「排除の論理」を明かしていきたい。

注1…2007年5月17日 日経産業新聞
注2…2007年5月18日 日本経済新聞
注3…2007年4月3日 日経産業新聞
注4…2007年6月6日 読売新聞

(菅井)