「PSP登場 ~PSPがもたらすもの~」Part2 |
「成功と数」
SCEが来年の年末商戦に発売を予定している携帯ゲーム機「PSP」。SCEは『年間1000万個程度の出荷を目指す』(注3)という。現在、携帯ゲーム市場で独占状態にあるゲームボーイアドバンス(GBA)が、初年度2400万台を出荷する計画だったことを考えれば、PSPにとって年間1000万台の出荷は無謀な目標ではないと思えるが、楽な数字では決してない。しかし、携帯ゲーム機の販売実績がないSCEが、初めから1000万台の出荷を目指すと言ったのは、ある程度の普及台数がなければゲーム市場での存在感を示すことができないと考えた結果なのであろう。
ドリームキャストの発売時にセガの社長であった入交氏はハードの普及数についてこう述べている。『ハードのビジネスには市場を押さえるのに最低限必要な量であるクリティカルマスというものがある。一年目で百万台、二年目で三百万台、三年目で五百万台ぐらいに一気に広げられるかが勝負の分かれ目となる』(注4)。つまり、ハードメーカーとして収益を挙げるためには、ハードを一気に数百万台単位で普及させなければならない、ということなのだ。考えてみれば当然の結論であるが、ではPSPは1000万台出荷を早期に達成できるのだろうか。
2000年のクリスマス商戦に発売された携帯ゲーム機にワンダースワンカラー(WSC)がある。バンダイが期待を込めて発売したハードであるが、初年度は100万台を超える出荷を記録し、出足は好調に思えた。しかし、その後はGBAの発売の影響があったために伸び悩みが続き、ついには新型機の開発から撤退せざる得なくなった。こうした例を見れば、携帯ゲーム市場で独占状態にあるGBAの前では、PSPと言えどもそう簡単には普及しないかもしれない。
だが、SCEには一つの成功例がある。それは、PS2での成功体験だ。PS2が登場した当初、PS2専用ソフトがかなり少なかったにも関わらず、PS2本体は一気に売れた。その売れ行きを「瞬間蒸発」と表現する所もあったぐらいである。専用ソフトがなくてもハード本体が売れた大きな理由に、PS2にDVD再生機能が備わっていたことが挙げられる。ゲームソフトがなくても、ゲームをプレイする以外の付加価値がハードにあったため、PS2本体は売れたのである。
ハードを一気に数百万台普及させることが、成功のために必ずクリアしなければならない壁であるのなら、SCEはPS2と同様にハード自体に魅力を持たせる戦略を執るだろう。久多良木氏は『ゲームや音楽、映画などの娯楽を楽しむ新しいスタイルを提供する。二十一世紀の“ウォークマン”だ』(前出)と述べていることからも、PSPにゲームをプレイする以外の何らかの付加価値が付くのは間違いない。その戦略が今回も成功するとは限らないが、PS2を普及させた過去の実績を考えれば、目標として掲げている出荷台数1000万台の達成は、それほど困難ではないのかもしれない。
注3…Mainichi INTERACTIVE ゲームクエスト
注4…2002年1月9日 日経産業新聞(つづく)
(ライター:菅井) |
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