「PSP登場 ~PSPがもたらすもの~」Part1
「2004年発売へ」

ソニーが携帯ゲーム市場へ参入する。アメリカで行われた世界最大のゲーム見本市『エレクトロニック・エンターテインメント・エキスポ』(E3)で、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の久多良木社長は、同社初の携帯ゲーム機『プレイステーション・ポータブル』(PSP)を次年度の年末商戦期に投入する予定であることを公にした。家庭用ゲーム機戦争に勝利したと確信しているSCEにとっては、携帯ゲーム市場での勝利が次なる目標になったようだ。

国内ゲーム市場ではPS2が優位にあるが、携帯ゲーム市場は任天堂の独壇場であり、SCEはまったく手掛けていない。ここに切り込む余地は大いにあると考えたのだろう。では、なぜSCEが家庭用ゲーム機市場だけでは飽き足らずに、携帯ゲーム市場への進出を図ったのか。背景には、ソニーグループ内部の事情がある。

2003年3月期の決算でソニーグループは、主力のエレクトロニクス部門が回復したことにより大幅な増益を達成したが、決算自体は事前の予想を下回る数字となった。原因はエレクトロニクス部門が2003年に入り、急激に減速したためである。しかし、同部門の不振がグループ全体の収益悪化に繋がらなかったのは、ゲーム部門と映画部門が奮闘したからである。特にゲーム部門は、グループ内で唯一1000億円を超える営業利益を生み出すほどの収益力で他部門の不振をカバーした。

ソニーがこれからも成長企業であり続けるためには、その“ソニーグループの稼ぎ頭”であるSCEがなお一層の努力をする必要がある。ソニーはグループ全体の収益改善のために、エレクトロニクス部門などへ今後、3000億円もの費用を順次投入する予定でいるが、その間、好調なゲーム部門は稼ぎ頭としてグループ全体を引っ張っていかねばならない。携帯ゲーム市場への参入は、さらなる成長を求められたSCEの行動の結果なのだ。

『消費者に驚きを与える商品づくりがここ数年できていない。目先の利益にとらわれてきたツケだ』(注1)。ソニー執行役員専務であり最高技術責任者でもある鶴島氏は、ソニーの現状をこう話す。そんな状況下で開発されているPSPには、これまでの反省を繰り返すことがないような「驚きを与えるような商品」であることが期待される。SCEの久多良木氏は『ゲームや音楽、映画などの娯楽を楽しむ新しいスタイルを提供する。二十一世紀の“ウォークマン”だ』(注2)と発言し、PSPをソニーの大ヒット商品である“ウォークマン”に例えたのも、鶴島氏の言葉を意識しているからではないだろうか。

携帯ゲーム市場への参入と消費者に驚きを与えるような商品の開発。これらはSCEがグループ全体から寄せられる期待に、必死に応えようとしている証だと言えるのではないか。

では、そのPSPは成功するのだろうか。少し気が早いが今回のコラムでは、PSPの未来を考えてみることにしたい。


注1…2003年2月14日 日本経済新聞
注2…2003年5月15日 日経産業新聞
参考文献…「ソニー 平成15年3月期決算短信」「2003年4月25日 日本経済新聞」

(つづく)

(ライター:菅井)

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