「強い危機感
~巨大ソフトメーカーの誕生~」Part4 |
「余裕」
スクウェアとエニックスの合併を最も深刻に受け止めなければならないのは、SCEである。なぜなら、次世代ゲーム機PS3に不透明な部分があるために、今回の合併が生まれたとも言えるし、さらには巨大なソフトメーカーが誕生することで、PS3に一沫の不安が出てくるからでもある。この一沫の不安が現実となれば、SCEはかなりの痛手を被るだろう。
ゲーム機が複数存在する環境下において、有力ソフトメーカー同士がひとつの共同体を構築した場合、ハードメーカー側は少々気を揉まなければならない。それはソフトメーカー達が「キングメーカー」へ変化するからだ。キングメーカーが自社のゲーム機に軸足を置いてくれている間は強い味方であるが、他のゲーム機に移籍した時には手強い協力者に変わる。この存在はハードメーカーとってちょっと厄介である。特に覇権を握っているハードメーカーには。
なぜなら、キングメーカーの存在は相対的にハードメーカーの立場を弱くするからだ。ゲーム機の生殺与奪の権を握られると、ハードメーカーはどうしても配慮せざるを得ない。その結果『日本国内での販売手数料の減収』(注17)などのあまり喜ばしくない現象が起こってしまう。さらには彼らに移籍された場合の損失を考えると、キングメーカーを自社の陣営に抱えるデメリットも少なからず存在する。そうなると、強すぎるソフトメーカーはハードメーカーにとってあまり歓迎すべきものではないと言えるだろう。
ハードメーカー側としては、ソフトメーカーは弱小ではなく、かといって強大でもないぐらいの規模であるのがちょうど良いのかもしれない。もしそうであるなら、ハードを提供する側としてはキングメーカーの誕生はなるべく避けたいはずである。しかし、それにも関わらず今回のSCEの対応は合併を歓迎したものばかりだ。『開発力の向上に期待している』(注18)、『競争力のあるコンテンツが今後出やすくなることからプレイステーションのビジネス全体からみれば今回の合併は歓迎』(注19)などの合併を好感する発言が多い。確かに合併により、こうしたメリットが出る可能性はあるし、なによりスクウェア・エニックスの狙いは移籍を目的に為されたものではないと言えるのでSCEのこうした反応は余裕というより、当然なのかもしれない。スクウェアの和田社長は『2005年ごろの次の世代にはゲームを楽しむ機器が何かは分からない。…どの業界にも主役になるチャンスはある』『プラットフォームも、どこから出てくるのか想像がつきません』(前出)と声高に言うが、これは合併効果を高めるための発言であって、真意ではないのだ。
だが、物事に絶対は存在しない。彼らが移籍する可能性はゼロではないのだ。万が一、スクウェア・エニックスが移籍したら、SCEの被る損失は計り知れない。巨大なキングメーカーの誕生の裏で、SCEの抱えるリスクは確実に拡大しているのだ。今年2月に行われるスクウェアの臨時株主総会で合併が正式に決定されるが、スクウェア株を18.6%保有するSCEがこの総会でどんな行動を取るのか注目される。もし、キングメーカーの誕生を本当は快く思っていないのであれば、同社株31%を保有する筆頭株主である宮本氏と組めば良い。合計で過半数に近い議決権を反対票としてに投じれば、土壇場で合併を白紙に戻すことも不可能ではないのだから。
(注17)…日経流通新聞MJ 2002年11月28日
(注18)…「スクウェア、エニックス:来年4月に合併 “危機意識が共通”(4)」 2002年11月26日 ブルームバーグ
(注19)…日経流通新聞MJ 2002年11月28日(おわり)
(ライター:菅井) |
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