「強い危機感
~巨大ソフトメーカーの誕生~」Part2 |
「危機意識の源泉」
業績が最良であるはずの両社を合併させてまで将来に備えさせたのは危機意識があったからだ。では、その危機意識はどこからくるのか。
スクウェアとエニックスは生き残るためには合併は必須のものであると考えている。ならば、両社は合併をすればその利点を活かして、迫りくる危機を回避できると判断しているのだとも言える。危機意識の源泉を探るには、合併によるメリットを解き明かすのが近道であろう。
合併後すぐにでも手に入るメリットは、両社の出版部門などの整理統合による増収・増益効果である。だが、この程度で危機を回避できるなら、合併という大きな決断にまで踏み切らなかっただろう。同一の企業体になることで革新的なソフトを生み出せる環境が生まれるのもメリットのひとつである。しかし、これも前記した通り、『お互いが持っている開発体制がそれを実現するいちばんの近道。それを無理矢理壊してまでいっしょにやらなきゃいけないということは、絶対にないんです』(注6)と言っているぐらいであるから、大きな期待はできない。社名が長くなったからと言って、革新的なソフトがそう簡単に登場するわけではないのだ。いつ出るのかも見当がつかない、そんな曖昧なものに大きな期待をかけていたとは考えにくい。では、一体合併によって新会社が手に入れたメリットとは何なのだろうか。
UFJつばさ証券のアナリスト岡敬氏は『両社のソフトが提供されないゲーム機は売れなくなるため、ゲーム機メーカーに大きな影響を与える』(注7)ことができると示唆している。つまり、スクウェアとエニックスは合併によってゲーム機の生殺与奪の権を手に入れたのだと岡氏は述べているのである。これはスクウェア・エニックスにとって大きな特権である。二大RPGである「ファイナルファンタジー」(FF)・「ドラゴンクエスト」(DQ)が供給されるハードはほぼ間違い無く、ゲーム機戦争の勝者となれる。この勝者を選べる特権は合併によるメリットであり、これこそが同社を危機から救うのである。
和田社長は『2005年ごろの次の世代にはゲームを楽しむ機器が何かは分からない。…どの業界にも主役になるチャンスはある』(注8)、『プラットフォームも、どこから出てくるのか想像がつきません』(注9)と言う。つまりスクウェアとエニックスは近い将来に現れるであろう次世代ゲーム機がどんなものなのか、またそれがどこから出されるかまったく予想できないでいるのだ。だからこそ、強烈な危機意識を持っていたのである。
もし合併をせず、次世代ゲーム機の生殺与奪の権を持たないまま、メインに供給するハードを間違ったらどうなるか。ソフトの販売本数が思った以上に伸びずにそれがきっかけで業績が悪化するという事態になる可能性は否定できない。しかも、大作ソフトの開発費用は莫大なものになる。これを失敗したときの影響はかなり大きい。そうならないために、合併することで次世代ゲーム機の命運を握りたかったのである。それさえを握ってしまえば、どのゲーム機を選んだとしても、選んだ先が次の勝者になるわけであるからハードの選択ミスを侵すことがなくなる。合併によって、次世代ゲーム機への世代交代期において失敗する確率を低く抑えることができるのだ。
しかし、ここで疑問が生じる。それは、ゲーム機の生殺与奪の権は合併する以前から両社は保有していたのではないか、ということだ。FFやDQの移籍でプレイステーションの勝利が確定的になったのは記憶に新しい。この事実は、もともと両社が生殺与奪の権を持っていた証拠でもあろう。そう考えると、次世代ゲーム機の勝者が予想できないために危機意識を持っているという予測はあまり説得力がない。では、彼らの本当の危機意識はどこからくるのだろうか。
(注6)…『週刊ファミ通 2002年12月27日号』 P11 エンターブレイン
(注7)…「スクウェア、エニックス合併へ ゲーム業界激変に強者連合で対応(6)」 2002年11月26日 ブルームバーグ
(注8)…日経産業新聞 2002年12月16日
(注9)…『週刊ファミ通 2002年12月27日号』 P12 エンターブレイン(つづく)
(ライター:菅井) |
|
|