「豪語する人々~その訳は~」Part2 |
「大口の理由」
『3DOの技術をもっていないあなた方は、どうやって3DOに対抗するつもりなんですか。3DOのような高い性能と、おもちゃ市場の範囲を超えるような価格水準の製品を扱ったこともないあなた方が、どうやって成功するつもりなんですか』(注9
3DOロバート副社長)。90年代の半ばにマルチメディア時代の到来だと騒がれ、家電メーカーなどが新しいゲーム機を引っ下げて、ゲーム業界に新規参入した時期があった。その際、マスコミに大きく取り上げられ、任天堂に勝利するかもしれないと言われたことがあったのがこの『3DO』だ。ロバート氏の言葉はその時、任天堂やセガなどに向けたものである。一方、任天堂の山内氏は相変わらず『あれは、九九・九九%駄目だ』(注10)だと息巻いていたのは、今と変わらない。
だが、任天堂やセガなどの“ゲーム業界の古株”ではない新規参入組でさえこうした強気の主張をするのは、やはり業界内ではそうしなければならないルールのようなものがあるからではないか。何かインパクトのある物言いをしなければ、ゲーム業界では通用しないのではないだろうか。
その疑問を解くためには、強気発言の多くが“未来”の自分もしくは相手を判断している内容であることに注目する必要がある。ここで取り上げた3DOに関しての発言も、同機の行く末を非常に肯定的に捉えたものと、否定的に捉えたものとの2つに分けられるが、すべて3DOの未来の姿を予測したものである。しかも、自らに都合が良いように、である。自分に都合が良い未来を予想する発言をすれば、世間からは強気だと捉えられるだろう。では、彼らはなぜそう言った発言をするのだろうか。
予想や予測が自らに都合良いものになる理由。それは、ゲームビジネスが『一寸先は闇』の世界であることが関係している。『この分野は、消費者に面白くないといわれてしまえば、それで終わり。しかもいつそういわれるか、だれにも予測できない』(注11)と山内氏も言うように、ゲーム業界の未来を予測するのは誰であっても、とても困難なのだ。
だからと言って、企業のトップが業界の未来を見通せないようでは困る。しかも、見通せたとしても、展望の開けない未来しか見れないのであれば、意味が無い。意味のある予想・予測とは「自分達にとって明るい未来」のはずである。企業のトップとしてこうした未来を描きださなければならない必要があるのだ。そして、描き出した未来は公にしてこそ、つまり口にしてこそ価値が生まれる。
ここに、ゲーム業界のトップ達が豪語する理由が見えてくる。つまり、彼らはトップの役割を忠実に果たしていただけなのだ。何も好き好んで自らの反感を買うような発言をしているわけではない。自らの繁栄を予測しなければならない立場にあるトップとして、わかりやすい言葉で自分の『予想した未来』を伝えようとしただけなのだ。結果として、それが大言を吐いていると捉えられているだけなのである。大口は「トップの役目のひとつ」なのだ。
では、その予想した未来を聞かせる相手は誰なのだろう。
注9…「セガvs.任天堂 新市場で勝つのはどっちだ!?」P43 著国友隆一 こう書房 1994
注10…「NHKスペシャル 新・電子立国 第4巻 ビデオゲーム・巨富の攻防」P263 著相田茂・大墻敦 日本放送出版協会 1997
注11…「セガvs.任天堂」P68 著赤木哲平 JMAM 1992(つづく)
(ライター:菅井) |
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