【コラム】「企業再生 ~黒字転換の意味とは~」part3 |
「失敗からの成功」
『ゲーム産業は将来がないと言われるが、とんでもない』(2001年3月23日
日経産業新聞)。ゲーム産業の将来性を否定する声に対して、反論しているのはコーエーの襟川恵子会長(当時、社長)だ。いつの時代でも、ゲーム産業はいつか衰退する、と言う人は必ずいる。こう指摘される背景には、ゲーム業界に不安定さが常に付きまとっているからだろう。2001年度の中間期、コナミは減益に陥ったがその際、同社の上月社長は『ヒットビジネスの怖さを見せつけられた』(2002年1月11日
日本経済新聞)と語り、ゲームビジネスの負の面を“怖い”と表現した。前記したアトラスの例からもわかる通り、ゲームビジネスには安定性が欠けている。衰退論者が絶えない理由は、その辺りが残念にも気に入られてしまった結果なのだと思われる。
業績が不安定なのは、ひとつに「ゲームビジネスの失敗は大きく響く」からだ。ゲームやハードが売れないと業績に大きく響く。しかし、商品が売れないという失敗以上に「企業戦略の失敗」も大きな打撃になる。戦略を見誤って、低迷するのはどの業界でも起こり得るが、中でもゲーム業界での戦略の失敗は致命傷にもなりかねない。セガの失敗はその典型だろう。
かつて優良企業だったセガは、オンラインの世界に過度の期待をし、いち早く覇権を握るためにハード事業やプロバイダ事業に多額の投資を行い、その結果大失敗をした。その失敗は、一時的にセガ自身の存続さえわからなくしたほどだ。これは、明らかに企業戦略の失敗だ。現在のゲームビジネスは昔と違って、巨額の資金が必要なビジネスになっている。これに多額の投資をし、失敗したとなると会社は簡単に傾いてしまう。セガの戦略の失敗は、間違い無くセガ自身の致命傷になりつつあったのだ。
しかし、セガは自分自身がしでかした大失敗を、かつて無いやり方で成功への礎にした。それまで懸命に尽力してきたハード事業からの撤退を表明し、ソフトメーカーとして生きることで失敗を成功に変えようとしたのだ。過去にハードメーカー側から、現役のハードの製造を中止します、とアナウンスされたことは無い。『…メーカー側から、製造中止という形で明確に“終わり”をつきつけられたことはなかった』(P116
「週間ファミ通 No.684」 2002年1月25日
エンターブレイン)とアトラスの岡田氏は語っている。それだけ、セガのハードの撤退宣言は異例だったのだ。しかし、ソフトメーカーへの転身によって、セガを苦しめていたハード事業はなくなり、2001年中間期に久しぶりに営業黒字を生み出すことができた。
これは逆に言えば、ハード事業の失敗があったからこそ、ソフトメーカーとしての成功があったと考えることができる。もし、ハード事業がもっと中途半端に上手くいっていたら、ソフトメーカーとして生きようと決意せずに、延々としてハード事業を続行し、それこそ本当に会社が無くなるまで赤字を垂れ流しつづけたかもしれないのだ。
企業戦略の大失敗を、成功に結びつけたセガの試みは今後のゲーム業界の良い教訓をもたらす可能性がある。それはセガのように、会社が傾くほどの失敗をしても、それを次なる成功に結びつられる柔軟な発想を持てば、失敗から復活するチャンスはあると明らかにしたからだ。セガの教訓が広まれば、失敗の多いこの産業をもっと強いものにすることができる。だからこそ、セガの黒字転換には大きな意味が含まれているのである。
(つづく)
(ライター:菅井) |
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