【コラム】「企業再生 ~黒字転換の意味とは~」part2 |
「プリクラの復活」
プリクラといえば、90年代後半に一大ブームを巻き起こした“お化け商品”である。開発をしたのはアトラスである。アトラスは、それまで「真・女神転生」を生み出したゲームソフトメーカーとしての印象が強かったが、プリクラのヒットによって世間の評価は、プリクラメーカーへと様変わりした。
プリクラ市場は、最盛期のころで1000億円にまで巨大化し、ブームの仕掛け人であるアトラスはかなりの恩恵にあずかった。ブームが最高潮に達していた96年度・97年度にアトラスが稼ぎだした営業利益はおよそ140億円。しかし、その内訳を見てみると、96年度には前年度比約九倍の94億円を荒稼ぎしているにもかかわらず、翌97年度には、すでに陰りが見え始め、営業利益はほぼ半減し、50億円に留まっている。つまり、プリクラブームは97年度の時点で収縮に向かっていたのだ。それを証明するかの如く、98年度には利益どころか、一気に8億円の赤字に転落をしている。プリクラに溺れたアトラスの迷走はここから始まる。
98年度からの三年間は、アトラスにとってただ赤字を積み上げる年月でしかなかった。ブームが過ぎ、売れ残ったプリクラを廃棄するために総額の100億円以上の純損失を出す羽目になったのだ。ここで
「140億円の利益に対して損が100億円で済んだのだから、まだましだ」と考えることは出来ない。なぜなら、それまでアトラスが利益として手にした額は実際には60億円程度にしか過ぎないからだ。140億円を稼いだと言っても、これは「営業利益」である。ここから税金などが差し引かれるわけであるから、アトラスの手元に残る金額は、かなり少ないものになる。だから、単純に考えて、プリクラブームでアトラスは利益を得るどころか、40億円もの巨額の資金を失っているのである。
だが、アトラスはここで終わらなかった。ブームに乗って急成長し、それが収束すると経営が傾く「ゲーム業界では良くある話」のひとつにはならなかったのだ。プリクラ事業を徹底的に見直し、ユーザーのニーズにあった商品開発や、接客対応・メンテナンス対応のレベルアップ、売れ残りが発生しないような生産方式に変更するなどの改革を行った。特に、ニーズに応えた新商品は、プリクラを再度人気化させる大きな要因にもなった。現在では、第二次プリクラブームにあると言われるほどにまで、プリクラ市場は回復をしたのである。
ここから、ゲーム業界の進歩を見て取ることが出来る。良く言われるように、ゲーム業界は“一発屋”的な側面を持っている。プリクラで急成長したアトラスが良い例だ。これまでであれば「一発屋はひとつの大ヒット商品を当てて、それでおしまい」という場合が多かったが、アトラスはそれを見事に覆した。完全に旬を過ぎていたプリクラをもう一度、ブームと呼ばれるまでに復活させたのだ。これがゲーム業界に与えた意味は大きい。一発屋の典型であったアトラスが再起したことは、一足先にゲーム業界の一発屋体質から抜け出したと言っても良いからだ。アトラスの先例は、必ず他でも活かされる。そうなれば、ゲーム業界から一発屋的側面が薄れていき、業界をたびたび襲ってきた“波”は平準化されるだろう。アトラスは、黒字に復帰することで、ゲーム業界を成長させる種子を蒔いたと言っても良いのだ。
(つづく)
(ライター:菅井) |
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