「“ファンドキュー”の目的」
山内氏が「ファンドキュー」を設立した理由は大きく分けて二つあるだろう。最初に挙げられるものとしては、前にも言ったように彼が、任天堂が独自に持っているソフト開発支援システムの援助額が少ないと感じていたからである。任天堂のシステムの場合、支援する企業の数に制限が無く、さらには支援金も無償で提供される特長はあるものの、最も大事な支援額は一件あたり1千万から2千万しか支払われない。一般的にゲーム開発費には億単位の資金が必要になるのだから、この額では少なすぎる。はっきり言って十分な支援額には程遠い。その点、山内氏の「ファンドキュー」では豊富な資金を背景に一件あたり10億円の支援をすることが出来る。支援できる企業総数は結果として、任天堂のものより少なくなるかもしれないが、元々ゲームは『一握りの天才がつくればいい』(P198
「ゲームの大學」 著平林久和・赤尾晃一 メディアファクトリー 1996
)と考えている節がある山内氏にとっては無駄に多くの企業を支援するよりも、むしろこの方が良いのだろう。山内氏が少ないと感じた任天堂の支援額を「ファンドキュー」を作る事によって増加させ、支援を手厚くする。それが第一の設立理由である。
第ニの理由としては、新しいゲームを生み出すためであろう。「ファンドキュー」の支援を受けるためには、GCとGBAとを連動させて遊ぶゲームを開発する事が大前提になっている。据置型と携帯型の両ゲーム機の双方を利用して遊べるゲームソフトはこれまで例が無かったと言っても良い。そのような全く新しいゲームソフトの開発に限定して支援をするのであるから、山内氏は「ファンドキュー」を使って、これまで見たことも聞いたことも無いような斬新な面白味を持ったゲームを生み出そうと考えているのではないか。もし、違うのであれば支援対象を「GCとGBAの相互を連動させて遊べるゲームソフトの開発に限定する」とは言わなかったはずだ。新しいゲームを求めていたからこそ、あえて注文を付けたのである。『新しい楽しさと面白さを開発し、市場に出せば、マーケットも広がり、支持も得られ、企業としての意味もある』(Mainichi
INTERACTIVE ゲームクエスト 「“Xboxは売れない” 任天堂社長、山内溥さん」
2002年1月17日)と常に考えていることからも、山内氏は「ファンドキュー」で新しいゲームを生み出そうとしているのだ。
しかし、ここでひとつ疑問が残る。それは、なぜ山内氏が任天堂の支援システム以外に、別途自分自身でファンドを設立したのか、ということだ。確かに、これまで述べてきた二点の理由があるからだが、それならば、任天堂のソフト開発支援システムを強化し、山内氏の不満を解消するシステムにすれば良かったはずではないか。山内氏にはそれが出来る強力な権力がある。なぜなら、彼は任天堂の社長であり、筆頭株主なのだから。はっきり言えば、山内氏に反対できる者など任天堂の中に存在しないのだ。権力と同時に資金もある。2001年9月末の時点で任天堂の手元には8000億円近い現金があり、次なる大ヒットゲームソフトの開発のために数百億円を投じたとしても十分耐えられる力を持っているのだ。
では、どうして山内氏は任天堂の開発支援システムを強化せず、私財200億円を使い、新たにファンドを設立したのであろうか。
(つづく)
(ライター:菅井) |