【コラム】「クリエイターを解放せよ ~開発と経営の分離~」Part3 |
「時間が無い(クリエイターの事情)」
ソフトメーカーの今回の決断はクリエイターたちにとっても、有り難い話ではないだろうか。基本的にクリエイターはゲームを開発することが仕事であるし、それを何よりも優先させたいと考えている。なぜならば、彼らはゲームを作りたくて、ソフトメーカーでクリエイターをしているのだから。
本来はクリエイターであるのに、なおかつ経営陣の一員であることによってゲーム開発に充てる時間が削られている。そういうデメリットを肌で感じているひとりがコナミ・コンピュータ・エンタテインメント・ジャパンWEST(KCEJ
WEST)の小島秀夫氏ではないだろうか。小島氏は世界的にも評価の高い「メタルギア」シリーズを手がけているクリエイターであり、KCEJ
WESTの取締役副社長でもある。彼は日常の業務に関して次のように述べている。
『まず、朝は6時に起きます。それで会社に来て7時50分から会議室でコナミグループの全国テレビ会議。で、10時から“メタルギア”と“Z.O.E.”チームの朝礼ですわ。若いスタッフは10時出勤なんです。僕らだけですよ、早くに出勤しているのは(笑)。それから午前中は決済書類等の処理をして、夕方にやっとゲーム作りを始められる」(P32~33
週刊宝島 2001 3.14 NO.496 宝島社)。
副社長の立場にある小島氏でさえ、これほどまでに時間を食われてしまうのであるから、社長であった場合はどうなるのであろうか。「グランツーリスモ」シリーズのプロデューサーである山内一典氏は、株式会社ポリフォニー・デジタルの社長であるが、彼はそれについてこう語っている。
『お昼からいろんな書類にサインしたり、外部の会社と打ち合わせをします。そうするとだいたい夕方になってしまうので、そこから内部の打ち合わせをして、夜9時くらいから僕自身の仕事。ゲームの仕様書を書いたり、仕上がってきたものをチェックしたり。すると朝になるんで寝るわけです』(P29
同)。
KCEJ
WESTの小島氏は夕方からで、山内氏は夜の9時から、というのであるから、一日の大半、或いは殆どを日常的な雑務に時間を取られてしまっているのだ。しかも、ようやく手に出来たゲーム作りの時間であっても、次から次に迫り来る雑務が、ゲーム開発に多少なりとも支障をきたしている。小島氏は言う。『ゲームのシナリオを書いている時は自分の世界に入っているわけです。でも、電話がかかってくるし、メールは届く。現実の世界に引き戻されるわけです。すると二度と同じ世界に入れないんですよ。これが、本当に悔しいんですよ』(P33
同)。
二人のクリエイターの日常を見てみると、日々の業務に一日の大半の時間を費やさざるを得ない状況に有るのが良く分かる。このような環境にあるのは、何も彼らだけではないはずだ。クリエイターであり、経営陣の一員でもある人達も、時間の差はそれぞれあるにしても、傾向としては彼らと変わらない日々を送っていると思われる。そうなると、皆ゲーム開発にあまり時間を割けない境遇に追いこまれてしまっている、と言えるのではないだろうか。
だが、こんな状況から救ってくれるソフトメーカーの決断はクリエイターにとって有り難い話だったはずである。なぜなら、経営から離れる事によって、日々の雑務から解放されゲーム作りに専念出来る場と時間を手に出来るのだから。まさに、今回の異動は、願ったり叶ったりの措置であったと言えるだろう。
(つづく)
(ライター:菅井) |
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