【コラム】「クリエイターを解放せよ ~開発と経営の分離~」Part2
「なぜ外すのか(メーカーの事情)」
 
自社の看板クリエイターを経営陣から外す意図はどこにあるのか。副社長の辞任を発表したスクウェアの鈴木社長はそのことについて、こう話している。

『今後坂口は経営のことに時間を取られることなく、クリエイティブな作業に専念できるようになります』(P101 週刊ファミ通 3月16日号 2001 エンターブレイン)。

つまり、経営から離れさせる事によって、よりクリエイターとしての能力を発揮してもらうのが目的だと述べているのである。同様にコーエーも人事異動に際してのプレスリリースに『襟川陽一は、今後、ゼネラル・プロデューサー、シブサワ・コウとして作品創りに専念いたします』(株式会社コーエープレスリリース 平成13年5月10日付)と記しており、スクウェアと変わらない目的の遂行のために、今回の異動を行った事がわかる。アトラスは、岡田氏の退任についてコメントはしていないが、岡田氏を取締役から外し、新設した開発本部の本部長に任命したことを考えると、スクウェア・コーエーと変わらない理由があったとするのが妥当であろう。

こうして見ると、クリエイターに経営陣の一員という責務を与えるのは、満足なゲーム開発環境を彼らから奪ってしまっていると言えるのではないか。経営陣に加わるとそれまで開発に割いていた時間を、煩雑な日々の業務に振り向けなければならなくなる。そのため、いろいろな弊害が生まれたのであろう。例えば、時間が少なくなってしまったため、開発の効率が以前より悪くなってしまい、開発期間が長くなった、などである。それは、結果としてゲーム開発の遅延をもたらし、会社全体に悪い影響を与えてしまう事になる。

そういったことは、ソフトメーカーとしては避けなければならない。だからこそ、スクウェア・コーエー・アトラスは、看板クリエイターを経営陣から外したのだ。特に、スクウェア・アトラスは前期の決算では赤字を計上し、業務の効率化・開発部門の強化が急務になっていたことも、今回の人事異動の一因であったのだろう。

自社の看板クリエイターにはその豊かな才能から、彼らの満足のいくゲームを製作してもらわなければならない。そのためには、経営というゲーム開発には、あまり関係の無い仕事を兼務させるよりも、制約の無い自由な開発環境を与える事こそが重要であるとソフトメーカーは気付いたのではないか。

ソフトメーカーを支えているのは、何と言っても開発部門である。今回の決定は開発部門を重視するがゆえの人事異動だったと言えるのだ。

(つづく)

(ライター:菅井)

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