【コラム】「メーカーの新たな試み 脱ゲーム事業化の果てにあるもの」Part3
「なぜ“今”なのか」

ゲーム事業はハイリスク・ハイリターンであるから、収益の安定化の為に新規事業を手がけている。これがソフトメーカーが新規事業に進出する主な理由であるのだが、こうした動きは最近、急に増えている感がある。何故だろうか。そもそも、ゲーム事業がハイリスク・ハイリターンであるなら、どうして昔から新規事業を行わずにいたのだろうか。ソフトメーカーはゲーム事業だけでは収益が不安定であると、ゲームビジネスを始めた時点で認識していたはずである。それなのになぜ、今になって収益を複数化する方針を打ち出したのであろうか。もしかしたら、最近の新規事業への注力はゲーム業界全体の今日的な背景があるからではないだろうか。

そのような観点から見てみると、確かに思い当たる点はある。それは、高性能ゲーム機の登場によるゲーム開発費の高騰や、ゲーム業界全体の売り上げ低迷などである。

『以前なら一億、二億円で作ったが、最近は五億、十億円をかけるのが珍しくなくなった』(2001年2月15日 日本経済新聞)。

こう語る開発担当者の声が、ソフトメーカーの苦悩を表している。ファミコン時代であれば、1000万円~2000万円程度の開発費があれば十分ソフトを開発する事ができた。しかし、新しいハードが発売されるにつれて高まるゲーム機の性能に伴い、開発費はうなぎ上りで激増、いまでは一億を平気で超える資金でさえ、充分ではないというのである。ゲーム事業は過去の時点であってもリスクが高いと思われていたのに、近頃ではその何十倍の資金を投入しなければ、ソフトを満足に作る事さえも出来ないのだ。しかも、そうやって製作したソフトが売れるとは限らない。

『以前なら三十万本は売れたソフトが最近では二十万本しか売れない。ユーザー動向がつかみにくくなった』(同)。

ナムコの担当者は売れないソフトについて、こうつぶやく。

期待したほどにソフトが売れなくなっている状況は、ナムコ特有の現象ではない。2000年9月に発行された日経流通新聞には、スクウェアの和田氏が「売れないソフト」について次のように語っている。

『我が社はFF9に先立ち、昨年七月に“聖剣伝説レジェンド オブ マナ”、十一月に“クロノ・クロス”を必勝の構えで売り出した。いずれも従来なら間違いなく百万本以上出荷できる作品だったが、二〇〇〇年三月期末までの結果はそれぞれ七十三万本と七十五万本に終わった。』(2000年9月5日 日経流通新聞)

これらの現状をまとめると、ソフトメーカーは非常に高額な開発費と売れなくなってきたソフトの板ばさみにあっていると言えるのだ。単純に考えても、ソフトメーカーのリスクは前にも増して高まったことは明らかなのだ。だからこそ、今、ソフトメーカーは新規事業に積極参加し、更にハイリスク化したゲーム事業のリスクを何とかして緩和しようと懸命になっているのである。

(つづく)

(ライター:菅井)

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