「奇妙な会見」
ゲームソフト大手のナムコ・エニックス・スクウェアは、2001年4月23日に三社が事業提携をしたと発表した。具体的な内容は、各社の創業者であり大株主であるナムコ中村雅哉会長兼社長、スクウェア宮本雅史元社長、エニックス福嶋康博会長の三者が、相互に保有株式の一部を今後、持ち合うようにするというものであった。ただ、株式の持ち合いとは言っても、株式の大部分を相互保有するわけではなく、わずかな数を持ち合おうとするだけである。
4月23日に行われた三社の提携発表会見で、唯一中身のあった話はこれだけであった。各創業者が三社の株を僅かに持ち合う。たったこれだけの話が「ゲームソフト大手三社の提携」と言うのであるから、ちょっと普通ではない。通常、企業同士が提携会見を行う場合、どんな分野で協力するのかを予め明確にするのが当たり前である。例えば、昨年、ゲームソフトメーカーであるアトラスと出版大手の角川書店が提携した際、今回と似たように、角川書店がアトラス株の10%を保有する事が発表された(ただし、今回の提携と違う所はアトラスが、角川書店の株を持つような事は無かった点である。つまり、相互保有ではなかったのである)。この提携では、株式保有だけでなく、アトラスのゲームソフト開発力と、角川書店の宣伝広告力を活用して、主としてゲームソフト事業で協力していくことが公にされている。このアトラス・角川書店の提携発表に代表されるように、普通、提携会見では何について共同してやっていくのかを明確に打ち出す。アトラス・角川書店の場合は「ゲームソフト事業を共同してやっていく」である。
しかし、今回のナムコ・エニックス・スクウェアの場合は、そうではなかった。なぜだろうか。その答えは次の言葉に隠されている。
『何も決まっていない』(2001年 5月2日 日経産業新聞)
この言葉を会見に現れた各社の経営陣は連発したという。だが、それもそのはず。各社は、この株式持合いの話を、それぞれの創業者から聞かされたばっかりであったのだ。そのため具体的な提携を検討する暇などあるはずが無かったのである。つまり、この具体的な中身に乏しい提携会見は、各社の大株主の独断専行によって生まれたものであるとも言えるのだ。
では、彼らは一体、提携によって何をしようとしているのだろうか。今回のコラムでは、何の具体案の無いナムコ・エニックス・スクウェアの提携がどんな意味を持っているのかを予想してみたい。
(つづく)
(ライター:菅井) |