「ゲーセンというプラットフォームの放棄」
カプコンショックをカプコンの社内的に見るのではなく、業界全体で捉えるとどうなるのであろうか。確かに、カプコンの業務用ゲームソフト事業の売上は少なく、数字的な面から言えば、具体的な影響は、殆ど無いように思われる(カプコンの業務用ゲームソフト事業売上はわずか39億円でしかない)。だが、カプコンの撤退は単に数字的な影響に留まらないと考えられる。それは、「90年代前半、ゲームセンターを賑わせた大手メーカーが手を引く」という事実に大きな問題があるからだ。「業務用ゲームソフト開発・販売を手がける大手がゲーセンというプラットフォームを見放した」のである。ゲームセンター側が受けた心理的ダメージは計り知れないだろう。
ゲーセン側にとって、今回の発表は「絶縁状」みたいなものだ。本来ならば、メーカーとゲーセンは「車の両輪」であるはずだ。どちらか一方が、頑張ってもゲーセン市場は動かない。ゲーセン市場を再び盛り上げるためには市場が冷え込んでいる今こそ、両者が協力し合って、活性化の道を探っていかなければならないはずである。それなのに、相方に「儲からないから止めた」と絶縁状を付きつけられてしまったのだ。ゲーセンのダメージは大きいであろう。
しかも、このカプコンショックが嫌な前例になる可能性もある。この後、他のメーカーも、カプコンのように「儲からなくなったからうやめる」と発表してしまうことだって考えられるのだ。カプコンショックの他のメーカーへの波及。これがゲーセンが最も恐れる事態の一つである。
さらに、カプコンショックは、ゲーセンからユーザーを引き離してしまうことも十分に考えられる。カプコンの撤退はゲーセンに良く行くユーザーにも、たまにしかいかないユーザーにも心理的ダメージを与えかねない。あの「ストリートファイター2」で一時代を築いたカプコンが、もうゲーセンにソフトを(ほぼ)供給しなくなる。この報を聞いたユーザーはがっかりするだろうし、心理的に「漠然とした残念さ」を味わうであろう。これによって、ユーザーは、これからのカプコンの業務用ゲームだけではなく、ゲーセン全体に期待しなくなる(=足を遠のかせる)可能性だってあるのだ。もちろん、これらは相当ネガティブな発想であるのは間違いない。が、可能性はゼロではない。影響は徐々に現れるかもしれないのだ。
もし、ゲーセン市場がこのままの状況で、改善が見こめない事になれば、カプコンショックの影響は少しづつ表れる。今回のカプコンの決断は、結果的にゲーセンを一層厳しい場所に追い込んでしまったといえよう。
ゲーセンの苦難の時代は続くことになる。
(おわり)
(ライター:菅井) |