「日経の報道とカプコンの否定」
この章では、両者の主張の食い違う点に注目し、それがあまりずれていないことと、カプコンが実際、業務用ゲームソフト事業に関して、どんな道を選んだのか、ということを推測してみたい。
日経新聞側の報道では、「新作ソフトの開発を止め、年内に撤退する」というものであるのに対し、カプコン側は「正式には撤退は決めていないが、業務用を縮小させつつ、業務用ソフトも供給する」と主張する。単純に考えると、縮小させるが業務用ソフトは引き続き供給していくとするカプコンの主張は、撤退を伝えた日経新聞側と対立する格好になる。しかし、良く考えてみると両者の対立点は意外に少ない。表面上では対立しつつも、実際はあまり食い違っていないのである。
まず、明らかに対立している「撤退と縮小」であるが、言葉にすると大きな違いがあるものの、両者の間にそれほどの隔たりはない。基本的にカプコンの売上高に占める業務用ゲームソフト事業の割合は10%前後でしかない。この数字を仮にカプコンが5%に半減させたとしよう(この仮定条件はそれほどおかしいものではないだろう。カプコンは縮小させる方向性を持っているのだから)。すると、カプコンの売上高の95%は業務用ゲームソフト事業以外からの収入で賄われることになる。わずか5%ほどしか売上に貢献しない事業は会社にとってあまり重要ではない。
業務用ゲームソフト事業が最盛期であったころの売上高に占める比率は30%であったのは前記した通りである。その時は、この事業は最も重要視されていたはずであろう。だが、それが5分の1にまで落ち込めば、会社の待遇は今までと同じであるはずがない。
2001年1月25日に発売されたプレイステーション2用ソフト「鬼武者」の開発費が10億円を超えているといわれている。それに対して、業務用ゲームソフト事業の売上構成比が今述べたとおり、5%となるとわずか20億円程の売上でしかなくなる(今期の業績10%・39億円をそのまま半減させる)。たった1ソフトの開発費と、1事業部門の売上の差が2倍程度でしかないのである。これでは、日経新聞に(事実上の)撤退と認識されてもしょうがない。
次に「ソフトの開発問題」であるが、カプコン側は「ソフトを引き続き供給していく」としか言っていない。これが「今後もカプコンの新製品を世に出し続ける」と考えるのは早計であろう。「ソフトの供給」は自社の在庫商品であるかもしれないし、他社のソフトであるかもしれないからだ。しかも、カプコンは「業務用ゲームソフト事業は縮小させる」方向で動いている。規模を縮小させつつ、大型の新作ソフトを開発し販売していく事は、現実的に難しいと言わざるを得ない。
ただ、無難な新作を細々と開発する事は多いに考えられる。現にカプコンは「機動戦士ガンダム 連邦vs.ジオン」「プロキアの嵐」などの新作をリリースする予定でいる。しかし、カプコンとしてはこれら新作に大きな期待はしていないだろう。そこそこのヒットを狙える新作であるとは会社側も思っているだろうが、所詮はその程度でしかない。数年前に同じ業務用ゲームソフト事業で大ヒットを飛ばした会社の対応とはとても思えない劇的な変化である。
こうしてみると、カプコンは業務用ゲームソフト事業から事実上撤退するものの、完全に止めてしまうことはせず、細々と続けていくという「生かしも殺しもしない」政策をとったと推測できる。この変化を日経新聞は「撤退」と考え、記事にした。事実はこんな所ではないか。つまり、今回の報道はいわゆる「誤報」ではなく、ほぼ真実を伝えていると言って良い。カプコンが否定したのは日経新聞側の使った「表現」だけだと思われる。
(つづく)
(ライター:菅井) |