【コラム】「ゲーム業界の構造改革 ~悪癖と宿命との決別~」part2
「テクモの挑戦」

ゲーム業界に染みこんだ延期癖を何とか克服しようと努力を重ねたのがテクモである。延期癖という悪癖は、実は当のソフトメーカーにも重荷になるものだ。当初予定していた発売日を延期すればそれだけ開発期間が長くなる。ゲームの開発費の多くは人件費なのだから、開発期間が延びれば延びるほど開発者に支払う人件費が事前の予想以上に積み重なっていく。開発期間が長期化すればそれだけ、ソフトメーカーの負担が重くなるのだ。これはソフトメーカーにとっては痛い話だ。発売延期の報はゲームユーザーには失望と落胆しか与えないが、ソフトメーカーにはこれに金銭的なダメージも加わるのだ。

しかし、テクモは半ば慣例化していた延期癖の一掃のために解決策を用意した。それは、開発者に発想の転換を求めるものだった。テクモの中村社長はこう言って開発者を指導したという。『作品ではなく商品を作れ』(2002年2月19日 日経産業新聞)。旺文社発刊の「国語辞典 第八版」によると作品は『文学・美術・音楽などの創作物』(P493)であり、商品は『売るための品物』(P626)だと記されている。つまり、テクモが作るゲームソフトは文化的な価値を重視する“作品”ではなく、売るための“品物”なのだと中村社長は説き、開発者達にゲームの完璧な出来栄えより、開発コストの面に重きを置くよう発想の転換を促したのだ。

ともすれば開発者はゲームソフトを作品であると考えがちであり、作品に完璧を求めてしまう傾向にある。これが開発期間が延びる原因になってきたのだ。しかし、彼らに発想の転換を求め、コスト意識を植え付けておけば、開発期間の延長がどんな不利益を自社にもたらすのかを理解するようになる。そうなれば、なるべく予定された開発期間にゲームソフトを完成させるべく努力するだろう。あまりに弊害が多過ぎる延期癖を直すためにはコスト意識を植え付けることは絶対に必要だったのだ。もちろん、開発チームのトップにコストを管理する責任を負わせたり、開発期間が延びすぎたゲームの開発を中止させるなどの措置を執ることも忘れずに行なった。だが、それは手助け程度の効果しかない。ゲームを効率的に開発し、あらかじめ予定した開発期間内通りに完成させるには、開発者の努力が何よりも大切なのだから。

商品よりも作品を作りたくなるのは開発者の性なのかもしれない。そう思わせる言葉を玩具メーカー大手のトミー社長富山幹太郎氏は口にしたことがある。彼は過去に自社の開発部門の人間を指してこう述べた。『開発部門は夢見る少年ばかり。売れる商品ではなく試作品を作るのがうまいだけ』(2000年11月27日 日本経済新聞)。“商品”ではなく“試作品”をつくる玩具開発者。開発者はどこでも一緒らしい。彼らはなまじ新しいものを創造できる才能があるために、つい“作品”を作りたくなる人種なのだろう。だからこそ、開発者なのだと言うこともできるが、それだけでは駄目なのだ。開発者の本能を抑えつつ、開発者を活かす術の一つがコスト意識の徹底なのである。テクモが延期癖を克服した背景にはこうした事情がある。

(つづく)

(ライター:菅井)

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