「総合型の失敗」
ゲームアーツの宮路氏が総合型が厳しいと判断している背景には、スクウェアの失敗があるからではないだろうか。
スクウェアは以前から巨額の開発費を投入する企業として有名であったが、そう言われるようになったのは、実は意外にも最近のことである。スクウェアの開発費が膨張を始めるきっかけはPS陣営への移籍と販売関連会社デジキューブの設立である。特にデジキューブの誕生は、スクウェアにとって大きな意味を持つ。それは、スクウェアの方向性を総合型に傾かせる出来事だったからだ。
デジキューブは主にゲームや音楽ソフトのコンビニエンスストア販売を行なっている企業である。ゲームソフトの販売場所はコンビニではあるが、ゲームをユーザーに直接販売する会社である以上、デジキューブは“ゲームソフト小売店”と呼ぶべきだろう。ただ、そうなるとデジキューブが販売するゲームソフトの種類は、多種多様なジャンルが必要になってくる。販売するゲームソフトが、ある特定のジャンルのソフトのみに偏ると、ユーザーに「品揃えが悪い店」と言われかねないためだ。それに、売り場の維持という観点からも幅広いジャンルのソフトは必須なのである。生まれて間も無い関連会社のデジキューブを何とか成功させたいと考えていたスクウェアは、デジキューブのために協力を惜しまなかった。積極的に幅広いゲームソフトを開発し、デジキューブに供給するようになっていったのである。
スクウェアはデジキューブの為に総合型を志向したが、反面開発費は膨張を始めるようになる。デジキューブのために幅広いゲームソフトを出すようになるのだから、開発するゲームはもちろん、それに携わる人間の数も増えるのは当然の結果である。しかも、その流れの中で開発部門が、鈴木スクウェア会長いわく『聖域化』(2001年10月19日
日経産業新聞)したことも開発費膨張に拍車を掛けた。デジキューブ設立を契機にした開発費の膨張は、徐々にスクウェアの経営を圧迫するようになっていく。そもそも、売上高に占める研究開発費の比率が30~40%、果ては50%までをも簡単に超えてしまう異常な構造が、長く続くわけがないのだ。2001年9月期の中間決算に出した133億円の赤字がそれを物語る。
昨年、ソニー・コンピュータエンタテインメントからの出資を受けなければならなくなった最大の理由はこれにある。一般的に映画「ファイナルファンタジー」の失敗がスクウェアの屋台骨をぐらつかせた原因と思われがちであるが、それはただのきっかけにしかすぎない。だからこそ、スクウェアは経営再建策として、映画事業の放棄だけではなく、開発費膨張の原因であるデジキューブを自社の関連会社から外し、開発費の抑制に取り組んでいるのである。
スクウェアの失敗から言える事は、総合型を目指したが故に開発費が青天井で高騰する原因を作ってしまったことだろう。宮路氏が総合型は大手でも厳しいと判断した背景には、スクウェアの事例が頭にあったからではないか。総合型を目指せば、それだけ余計に開発費がかさんでしまい、避けられるリスクをまともに被ってしまうのだ。こうしたリスクには企業の規模は関係無い。どんな企業でも自社の規模に見合わないほどの開発費を投入して行けば、何処かで歯車が狂ったとき必ず経営危機を迎えてしまうからだ。大手でも会社は簡単に傾く。スクウェアが身を以って示している。
スクウェアがもたらした教訓が、宮路氏の言葉になって現れた。そう考えても良いのかもしれない。
(つづく)
(ライター:菅井) |