【コラム】「スクウェアの決断 ~本業回帰へ~」Part1
「150億円」
 
ゲームソフトメーカー大手のスクウェアは、2001年10月9日にソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)からの出資を受け入れたと発表した。出資金は148億9600万円にも上る。SCEがスクウェアの総発行済株式数のニ割に近い大量の株式を新たに買う事で、今回のスクウェアへの資本参加が成立した。これによって、SCEはスクウェアの全株式の18.6%を保有することになり、創業者でありオーナーでもある宮本雅史氏の40.98%に次ぐ第二位の大株主になった。スクウェアは、この度の増資はゲームソフト開発力と財務体質の強化を目的に行われたものだとしている。

スクウェアがSCEに出資を要請した背景には、何と言っても映画事業の大失敗がある。映画「ファイナルファンタジー」は1億3700万ドル(約164億円)もの莫大な資金と約200人のクリエイターを投入しながら、北米での興行収入は目標の三分の一の3000万ドル、日本での収入は『目標の9億円には届かない見通しだ』(asahi.com 「CG映画“FF”不振でスクウェアが130億円の特損」 2001年10月4日)と報じられるほどの惨憺たる結果しか残せなかった。しかも、日本での上映は、あまりの不人気を反映して3週間で打ち切りになるという。スタジオジブリが制作し宮崎駿氏が監督を務める、映画「千と千尋の神隠し」が7月に公開以来、日本映画最高の興行収入を挙げているのとは、まさに正反対である。

映画「ファイナルファンタジー」の想定外の不振は、スクウェアの経営を直撃した。スクウェアはSCEからの出資を受けると発表する一週間ほど前の同月2日に、映画制作費の同社負担分の139億円が回収不能になる可能性があると公表しているのだ。この発表によって、スクウェアは2002年3月期も前期に引き続いて赤字になることがほぼ確実になった。その赤字額は前期比三倍以上の100億円をも上回ると見られている。

100億円を超す赤字額は、スクウェアの手持資金の不足を招き、財務体質を非常に弱体化させることになる。特に、資金不足は大問題だ。業界関係者の中にはスクウェアの資金不足について『来期以降のソフト開発資金が底をつく』(2001年10月10日 日本経済新聞)と見ている人もいるほどであるから、その深刻さが窺える。

資金不足でゲームソフトメーカーがゲームを開発できなかったらどうなるのか。同じソフトメーカーであるハドソンは資金難によってゲーム開発費不足に悩まされたメーカーの一つだ。ハドソンはメインバンクであった北海道拓殖銀行破綻後、資金不足に悩まされた。資金不足による弊害は、ゲーム開発が滞り、新規開発が出来なくなるという形で現れた。その結果、ハドソンから発売されたゲームタイトル数は激減、ゲームソフトが少なくなれば当然売上も減り、1999年2月期に170億円あった売上は2001年2月期には半分以下の70億円台になってしまったのである。

こうした前例があるからこそ、スクウェアはゲーム開発ができるだけの充分な資金を必要としたのである。だが、その調達先としてSCEを選んだ理由はどこにあるのであろうか。それらを次に考えてみたい。

(つづく)

(ライター:菅井)

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