【コラム】「“バイオ”GCへ移籍 ~開発者側の論理~」Part3 |
「カプコン側の理由」
バイオシリーズがPS2からGCに移籍したわけは、三上氏の個人的な理由があったからである。そういうことを踏まえていないと、“バイオ移籍”という事実だけを捉えて、カプコンのマルチプラットフォーム戦略が変更されたと見てしまう恐れがある。時間がなく、多忙な三上氏がゲームを作るためには、非常に作りやすいGCに供給する以外、道がなかったのである。だから、カプコンが掲げている戦略が変更になったわけではないのである。
しかし、カプコンとしてはバイオシリーズを、PS2で発売することはできなかったのであろうか。確かにクリエイターである三上氏には、ゲームを制作する充分な時間がない。それでも、カプコンは、ゲームを作るのにどんなに時間がかかったとしてもPS2で制作をしなさい、と三上氏に指示することもできたはずだ。それなのに、あえてPS2への供給を諦め、GCでの供給を目指した理由はどこにあるのだろうか。
カプコンがバイオシリーズのPS2での発売を断念して、GCにバイオシリーズを供給する理由は大きく分けて3つある。まず、第一の理由はGCでの開発期間の短さがあろう。そして、この理由が“バイオ移籍”に最も強い影響を与えたと思われる。
三上氏にとって魅力を感じた開発期間の短さは、カプコンにとっても充分魅力的であった。なぜなら、開発期間の短さは、ゲーム開発のために投入しなければならない人員が減ることを意味し、それはそのまま開発費の減少につながるからだ。高性能ゲーム機の登場により、天井知らずで高騰を続けるゲーム開発費に苦しむソフトメーカーとしては、これは大変ありがたい。開発費の増大は、以前からソフトメーカーも苦々しく感じていたし、ゲームが売れない時代にあっての開発費の増加は出来るだけ避けたいとも考えていたはずなのだ。それを少しでも救ってくれるGCはソフトメーカーにとって頼もしい存在であろう。しかも、GCの開発機材は安い。任天堂の岩田聡氏は『開発用ハード自体の値段が(NINTENDO64の時と比べて)10分の1に下がったということです』(ASCII24
「“次世代ゲーム機の覇者は、ゲームキューブです”任天堂株式会社 取締役経営企画室長 岩田聡氏 月刊アスキー2001年9月号 Key
personインタビュー」 2001年9月14日
カッコ内は著者)と述べ、開発機材がとても安価になっていることを強調する。このように、GCにはPS2が持っていない大きな魅力があったので、カプコンはバイオシリーズをGCに供給しようと考えたのである。
第二の理由は、バイオシリーズの流れをくむPS2用ソフト「鬼武者」や「デビルメイクライ」が順調にPS2で売れていることが挙げられる。特に「鬼武者」はPS2初のミリオンヒットを記録するなどバイオシリーズと遜色が無いほど、ビックタイトルに成長している。こうしたバイオシリーズのいわば“後継者”がPS2で売れていることも、バイオシリーズが移籍した一因であろう。つまり、バイオシリーズ自体はPS2では出ないかもしれないが、バイオシリーズと言っても良いソフトはPS2にきちんと残っているのだ。こういったことも、本家のバイオシリーズがGCに移籍できた一因ではないだろうか。
第三の理由として考えられるのは、やはり三上氏が制作したゲームで利益をあげるためには、「時間がいくらかかって良い」とは言えない事情がある。ゲームの開発期間が延びれば延びるほど、開発費がかさむのは当たり前の事である。三上氏が作る“バイオ”だからとは言え、開発費が潤沢にあるわけではない。あまりに開発期間が長いと、そのゲームで利益を挙げることは難しくなるのだ。かと言って、開発期間を短くすると質の良いゲームはできない。要するに、三上氏の制作するバイオシリーズで収益を得るためには、開発期間が長く開発費もかかるPS2ではなく、開発が容易なGCで供給する以外に方法が無かったのである。
カプコンがバイオシリーズの移籍を決定した背景には、上記の通り主に3つの要因があり、それが総合的に作用したために今回の移籍が決まったと考えられる。
(つづく)
(ライター:菅井) |
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